アメリカ・グレートプレーンズの観光まとめ

アメリカ合衆国
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大きく三分割

 古きよきアメリカのロマンといえば、やっぱり大平原です。

これぞまさに大平原

 美しい草原に清らかな川が流れる。言葉もありません。
 しかし、そんな大平原も、旅行するとなると、何かと不自由な交通事情になっているのです。というのも、大平原と西部を隔てているのはロッキー山脈で、これを乗り越えるルートは限られます。

 シアトルからアメリカ北部を横断するルートか、それともサンフランシスコからソルトレーク、そしてデンバーに出る中部を通り抜けるルートか。さもなければ、ロスアンゼルスから枝分かれする、フラッグスタッフから北東にシカゴまでいくルートか、エルパソを経由してニューオーリンズなど南部地域に出るルートか、これくらいしかありません。
 南北の移動がレンタカーかバスに限られるため、大平原といっても、その南北間の移動を前提とした旅程は組みにくいのです。

 実質、この地域は三つに分割できると思います。

  • ソルトレークシティ
  • デンバー
  • モンタナ州、ワイオミング州、およびラピッドシティ近郊

 ソルトレークシティは特殊な場所です。モルモン教徒にとっては聖地ですが、それ以外の人にとってはグレート・ソルトレークアンテロープ島州立公園くらいしか見所はないかもしれません。
 それでもソルトレークとデンバーは、電車一本で行けます。バスも直通で繋がっています。ですが、デンバーからだと、かろうじてバスでラピッドシティに行くルートがある程度で、やはりというか、ボーズマン近辺へのアクセスはよくありません。なので、ここではロッキー山脈と大平原ということで一つにまとめて説明していますが、事実上、別の地域と見るべきです。

 ただ、旅行計画を立てる上では、そこまで問題になるところではないかもしれません。というのも、緯度が違うということは、気温も気候も、よって観光の最適時期も異なるからです。
 では、いつ訪問するかですが、この三箇所で微妙に異なってきます。ソルトレーク周辺は、この三箇所の中では一番暑いので、の訪問がいいでしょう。これが山を越えてデンバーに入ると、一段涼しくなります。
 ラピッドシティの気温はデンバーと大差ないのですが、その手前のボーズマンでは、一段寒くなります。夜間には寒ささえ感じることでしょう。よって、この辺りを旅するなら、にするべきです。

 どこも内陸なので、昼夜の寒暖差には気をつけましょう。

 なお、アメリカの観光地を網羅したリストはこちらです。

ソルトレークシティとその近郊

 ソルトレークの観光ですが、都市の中の観光は、ほとんどモルモン教関連となります。
 信者の方には説明不要でしょう。しかし、信仰がない人には、ただ大きな建物があるというだけです。

ソルトレークの中心、テンプルスクエア

 モルモン教とは何か、ご存じない方のために簡単に説明すると……
 街中を男の二人一組で、スーツに自転車で巡回している外国人、です。何かと思うかもしれませんが、そうやって人に話しかけて布教するのが、モルモンのスタイルです。見たことがある人も多いのではないでしょうか。
 モルモン教というのは、外からモルモン教徒を呼ぶ場合の名称で、彼ら自身は「末日聖徒イエス・キリスト教会」と名乗っています。

 19世紀初頭、バーモント州の田舎で、ジョセフ・スミスモロナイという天使から金板を授かったのが、モルモン教のはじまりとされています。これを書いたのがモルモンという預言者で、この金属板に書かれた内容がモルモン教の経典ですが、解読できたのはスミスだけでした。
 そういう経緯によるので、モルモン教はキリスト教の一派を名乗っていますが、カトリックやプロテスタントとはまったく違います。そのため、周囲から見れば意味不明の新宗教であり、スミスは迫害を受け、殺されてしまいます。
 スミス死後の教団を引き継いだのがブリガム・ヤングでした。彼は信者達を連れて更に西に向かい、ソルトレークでやっと落ち着きました。

ブリガム・ヤング

 なお、羨ましい(?)ことに、かつてのモルモン教は一夫多妻制だったそうです。ですが、アメリカの法律に従う形で、1890年には禁止され、今では一夫一婦制をとっています。

 私は、個人的に信者の方にお話をお伺いしたこともあります。
 死んだらどうなるの、私みたいな信者でもない人は地獄に落ちるの、と尋ねたところ……

  • 人は生まれる前「叡智」と呼ばれる霊だけの存在だった
  • それがどこに生まれてくるかを自分で選んで、記憶もなしにして誕生してくる
  • 現世で修行を積んだ後、肉体は捨てる
  • その生涯の過ごし方によって、神様による始末も変わってくる
  • 信仰のない人も罰を受けるというよりは、ただ「無」になるだけ
  • 逆に信仰を極めた人は「日の栄え」といって、全知全能の神と同じ力を与えられ、新たな世界創造に取り組むことになる

 みたいなことを言われました。
 信じないと死ぬぞ、地獄に落ちるぞ、とは言われなかったので、そこまで狂信的でもなく、安心です。
 宗教施設の見学は一般に開放されているので、見にいくぶんには問題ないでしょう。日本語のツアーも、運がよければあるようですから、いろいろ教えてもらうことができると思います。ただ、あくまで彼らにとっては宗教活動なのだということは、忘れずにおきたいものです。

ビンガムキャニオン鉱山

 モルモン関連以外の観光地は、ほぼ郊外になります。
 2002年に冬季オリンピックが開催されたオリンピックパークが、今では屋外遊園地みたいになっています。また、ビンガムキャニオン鉱山も「宇宙から見えるくらいやたらと大きい穴」という意味では、なかなか見ものです。美しいかどうかは別ですが。

グレート・ソルトレーク

 自然という意味では、グレート・ソルトレークアンテロープ島州立公園が見所でしょう。泳げない人でも体が浮くくらい、ソルトレークの塩分濃度は高いそうです。
 ここを訪れる観光ツアーも存在します。

大平原の要衝、デンバー

 デンバーはいろいろな楽しみ方ができる旅行先です。

 旅行の醍醐味は、なんといっても「土地の雰囲気」にあるわけですが、そういう意味ではラリマースクエアは魅力的な場所といえるでしょう。1971年に地元の活動家ダナ・クロフォードが、19世紀半ばのデンバーを再現する計画を立ち上げ、今ではこの町を代表するポイントになりました。たった百メートルほどの通りでしかありませんが、さまざまなレストランやショップが並んでいます。
 感じのいい区画ということであれば、リバーノース・アート地区も見逃せません。1980年代に製造業が衰退した後、アーティストのアトリエがこの地域に集まりました。そして21世紀になってから町おこしが始まって、見事に生まれ変わったのです。

ラリマー・スクエア

 もう一つ、街の中での楽しみということであれば、デンバー美術館などはどうでしょうか。ネイティブアメリカンのアートコレクションがアメリカ国内でも最大規模といいます。
 この地域のネイティブアメリカンというと、スー族に代表される大平原の部族になります。西海岸のそれとは異なった文化を持った集団なので、個別に理解しておきたいものですね。

 夏場であれば、レッドロックス・アンフィシアターもポイントです。
 大都市のようなミュージックホールはありませんが、夏になると、ここで連日イベントが開催されます。

デンバー郊外の観光地

 また、デンバーは郊外にも楽しむポイントがあります。
 ロッキーマウンテン国立公園に行くなら、デンバーからが一番近いです。ちょうどシャイアンとの間くらいにありますね。ただ、訪れる場合には注意が必要です。標高が富士山より高い山々に登ることになるので、くれぐれも防寒対策を軽視しないでください。

 ロッキーマウンテンとは反対、南に向かうと、コロラドスプリングスに出られます。決して大きな町ではありませんが、保養地としても知られていますし、ここには空港もあります(デンバーにも国際空港がありますが……)。
 すぐ近くにはガーデン・オブ・ゴッドパイクス・ピークといった岩場や山があり、目を楽しませることができます。
 距離にして120キロ、車で2~3時間の距離なので、デンバーに長期滞在するなら、見に行ってもいいでしょう。

パイクス・ピーク

 デンバーからだと、北上してシャイアン、または東に向かってオマハ、或いは北東方向のラピッドシティが次の目的地になりそうです。

 シャイアンは、ぎりぎりワイオミング州に含まれる田舎町です。しかし、これがワイオミング州の州都だというのですから……

 ここでは世界最大級の野外ロデオイベント「シャイアン・フロンティア・デイズ」が開催されます。カウボーイの街というだけあって、夏には十日間にわたってお祭りになり、その時だけはホテルも満室になってしまいます。このイベントは百年以上前から開催されており、その記録は博物館にまとめられています。
 また、テリー・バイソン・ランチという牧場では、放し飼いされているバイソンやダチョウを間近に見ることができます。他にも乗馬や釣りなど、アウトドアっぽい何かを楽しむことができます。

シャイアン・フロンティア・デイズの様子

 どうでもいいですけど、シャイアンって街の名前、かなり変ですよね。
 元はといえば、とあるインディアンの集団を見た白人がスー族に「彼らはなんだ」と尋ねたところ「シャイアン」と答えたからだというのです。この地に住んでいたネイティブ・アメリカンはシャイアン族ということになりましたが、このシャイアンというのは「わけの分からない言葉」という意味らしいです。自分達とは違う言語を用いる連中だから、という意味で、スー族の人は何気なしにシャイアンと言ったのですが、それが後々までこうやって民族や町の名前にまでなっちゃうというのが、なんとも……

 オマハは、いくつか博物館もありますし、トウモロコシやビーフの名産地らしいですが、観光地というよりは中継地と考えたほうがいい気がします。
 ウォーレン・バフェットが暮らしているから日本人も名前は知っていますが……
 ただ、ヘンリードーリー動物園だけは、捨てたものでもありません。世界最高の動物園の一つと言えるでしょう。

 ラピッドシティに行く場合は、レンタカーがあったほうがいいでしょう。見所の多くは郊外にあって、それなりに遠いからです。
 まず、アメリカを象徴する大彫刻、マウントラシュモア国定記念物……ここまで来たら、見ないわけにはいきません。

左からジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、
セオドア・ルーズベルト、エイブラハム・リンカーン

 岩山が余って仕方ないのか、更にこの南西方向には、クレイジー・ホース・メモリアルも制作中だそうです。これはスー族の英雄を記念するもので、完成すれば世界最大の彫像になります。

 また、この近辺には他にも、奇観で知られるデビルスタワーや、荒涼とした起伏のある地形のバッドランズ国立公園、野生動物がいっぱいのカスター州立公園と、屋外の見所がたくさんあります。

デビルスタワー

 ラピッドシティはデンバー方面からでも、ボーズマン方面からでもアクセスできる場所です。もし余裕があったら、ここまで足を伸ばして観光したいものです。

モンタナ州、ワイオミング州の国立公園

 最後に、ボーズマン近辺のお話です。
 ここを訪れるなら、起点は恐らくシアトルになるでしょう。アムトラックで東に進めば、グレイシャー国立公園の入り口に辿り着けます。

 残念ながら、ボーズマンそのものにはほとんど見所がありません。
 よってここを中継するなどして、休憩を取りつつすぐ南のイエローストーン国立公園を目指したほうがいいでしょう。

あまりにも有名なこの色合い

 更に、そのすぐ南にはグランドティトン国立公園もあります。

こちらも美しい

 この辺り、非常に美しいのですが、なにぶんにもアクセスが悪いです。一応、ワイオミング州の中なのですが、州都のシャイアンは南の端にあって、その間を繋ぐ交通手段があまりありません。
 よって自力で訪問する場合、どうしてもレンタカーが必要になります。ソルトレークから数時間運転して行くか、或いは最寄りのローカル空港であるジャクソンホール空港から車を借りるか、或いはボーズマンからドライブ、ということになります。
 もし運転を避けたければ、ボーズマンまたはソルトレーク発の観光ツアーによるしかありません。グランドキャニオンのようにあちこちから移動手段が提供されていればいいのですが、イエローストーン公園には、そういうものが整備されていないのです。

 ロッキー山脈から大平原にかけては、このように国立公園などが大きな見所になってきます。交通手段が未整備なことの多い地域でもあり、難しい旅になる部分もありますが、その分美しいものがあるので、頑張ってまわってみたいものです。

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