南部の概要と闇
アメリカ南部は大きく三つに分けられます。
南東部を占めるフロリダは、誰もが知るリゾート地です。オーランドのテーマパークと、マイアミの海水浴場は、特に説明を要しないでしょう。
逆に西側、テキサスやオクラホマについては、これはどちらかというと西部に含めるべき場所かもしれません。ただ地理的には南部に近いです。広い割に見所が点在している地域です。
そして中央を占めるのが、アトランタを中心とした南部らしい南部です。アパラチア山脈の西からミシシッピ川にかけては、ジャズ、ブルース、ロック、カントリーと、さまざまな音楽が楽しめる都市が広がっています。また、アパラチア山脈の東側には、いかにも南部らしい街並みや史跡を楽しむことができます。

そんな多様で楽しい南部ですが、アメリカの暗黒面もまた、ここに残されているのです。
もともと南北戦争の敗者側になったのが南部諸州です。奴隷制が長らく残った地域でもあり、よって人種差別は全米でも最も苛烈です。白人は黒人を今でも蔑み、黒人は白人をいまだに恨んでいます。そして、黄色人種もやはり、冷たくあしらわれることがあるのです。
モントゴメリーのローザ・パークスに始まるバス乗車拒否運動、リトルロックの高校の黒人差別問題、そして公民権運動で活躍したマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺されたのも、メンフィスでした。

そうした差別は、治安にも翳を落としています。たとえばメンフィスは、全米で二番目に治安の悪い都市でもあるのです。
この地域を旅するなら、夜のライブハウス巡りはしてみたいところでしょう。ですが、決して治安のいい地域ではないことを理解した上で、慎重に行動することが求められます。
また、旅行に向く時期というものも、よく考えるべきです。
日本と似たような気候と考えればわかりやすいですが、春は過ごしやすいながら、夏以降になるとハリケーンの来襲もあります。ニューオーリンズがたびたび水害に見舞われていることも、たまに日本のニュースで報道されていたかと思います。
魅力的な地域ですが、それなりに用心していきたいものですね。
なお、アメリカの観光地を網羅したリストはこちらです。
フロリダはリゾート半島
まずはフロリダ近辺から紹介します。
見所は大きく二つ、オーランドとマイアミです。
オーランドは、普通の街ではありません。ひたすらテーマパークで遊ぶための場所です。
ここに居を構えるテーマパークは……
- ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)
- ユニバーサル・オーランド・リゾート
- シーワールド・オーランド
- ケネディ宇宙センター
この四つです。
そして、ほぼこれだけが見所といっていいでしょう。

こういうところをわざわざ海外に出てまで目指す人は、既にこの分野のファンだと思います。ディズニーのディープなファンでもなければ、東京ディズニーランドで満足できるでしょうし。
ユニバーサル・オーランド・リゾートには、ハリーポッターのダイアゴン横丁など、映画の世界がそのまま再現されている場所があります。これも好きな人なら、という場所です。
日毎にいろんなテーマパークを見てまわりたいということであれば、二つのテーマパークの間にあるインターナショナルドライブにホテルを取れば済みます。
ですが、ディズニーだけでいいという人は、WDWの中にホテルがあるので、そちらに泊まったほうがいいでしょう。直営ホテルに宿泊すれば、オーランド国際空港からの直通バスを無料で利用できたり、施設内で買ったお土産をホテルに配送してくれたり、また各パークの滞在時間が延長されたりと、いいこと尽くめだからです。

マイアミについてはもっと説明不要かもしれません。誰もが知るビーチリゾートだからです。
見るべきポイントはいくらもありますが、簡単に説明します。マイアミは、本土側のマイアミ市と、細長い島側のマイアミビーチに分かれています。見所が分散しているので、ポイントを絞らないとなかなか収まりがつきません。レンタカーで移動してしまえばなんとかなるのですが、以前は治安の悪さもかなりのものでしたし、やはりあまり欲張らないほうがいいでしょう。
ここぞ、という場所だけを列挙するなら……

・アールデコ地区
マイアミビーチ側にあります。その名の通り、アールデコ調の建物が立ち並ぶエリアで、街並みの美しさを楽しめます。
・リンカーン・ロード・モール
マイアミビーチ側では最大の繁華街です。ショッピングにレストランにと不自由しません。
・リトルハバナ
こちらは本土側の地区です。キューバから逃れてきた人々が暮らすエリアで、道端の看板もすべてスペイン語になっています。周囲とは一線を画す雰囲気を味わいに、覗いてみるのもいいかもしれません。
・エバーグレーズ国立公園
アメリカの東側では数少ない国立公園であり、世界遺産でもあります。美しい湿地帯、野生のワニ、そして殺到する蚊。刺されて痒いだけならいいですが、デング熱でももらったらシャレになりません。防虫対策はしっかりしていきましょう。

ダラス近辺
では、南部の真ん中をスキップして、ダラスまで飛びましょう。
ダラス=フォートワース空港を降りると、すぐそこに観光地が広がっています。グレープヴァインです。

私もここを見て歩いたことがありますが、正直、観光地だといわれてやっとそうかとわかった感じです。一応、観光用の列車もありますが、土日しか走っていないらしく、私は線路の上に横たわってみたりもしました。危ないので真似しないでください。
ただ、奥へと進めば、いかにもな街並みもありますし、グレープヴァイン湖の近辺までいけば、リゾートホテルもあります。

フォートワースはもともとアメリカ最大の家畜の取引所のあったところで、なのでムードとしては西部です。カウボーイの世界ですから。
これに対してダラスはもっと都会の雰囲気です。ただ、最大の目玉がケネディ大統領暗殺って……それも観光ポイントになってしまっているのが、なんともいえません。
他にテキサスの観光地としてはヒューストンがあります。
ただここも、基本的には宇宙センターがあるだけということで、よほど好きでもなければ、訪問はお勧めしません。
ただ、ダラスもヒューストンもいくつかのスポーツチームが本拠を置いているので、観戦目的であれば、行くこともあるかと思います。
音楽とクレオール料理、そしてマルディグラ
では、いよいよ南部の真ん中です。
南はニューオーリンズから、北はメンフィスまで。
この地域を旅する魅力は、なんといっても音楽です。
ニューオーリンズのバーボン通りやフレンチマン通り、メンフィスのビール通り、そしてナッシュビルのディストリクト。それぞれジャズ、ブルース、カントリーミュージックの本場です。ライブハウスをハシゴして、音楽漬けの日々を送るのが、最高の贅沢でしょう。

しかし、中でも魅力的なのは、やはりニューオーリンズです。
プリザベーションホールはあまりに有名です。19世紀に建てられたこのライブハウスは、伝統的なジャズを保存することを目的に運営されています。また、ここに限らずあちこちにハコがありますが、中には大物アーティストが普通に出演する場所もあるので、正直休む暇がないでしょう。
しかも、ここにあるのはジャズだけではありません。フランス人が持ち込んだケイジャンミュージックに、黒人音楽の要素が加わったザイデコもあります。また、ライブハウスをまわると、ブルースを聴かせるところもあります。

また、多文化の混淆がこの街の特徴なので、料理も多様です。アメリカの他の地域と違って、ここでは変わった料理を口にすることができます。ここがルイジアナ、元はアメリカに売却された旧フランス領だったことを思えば驚くことでもありませんが、クレオール料理が盛んです。
ジャンバラヤのようなスパイスのきいたものもありますし、海に近い利点から生牡蠣を食べることもできます。そして、ザリガニやナマズまで出てきます。

昼間も退屈はしないはずです。18世紀末からの街並みも、他では見られないものです。
また、ニューオーリンズは、世界三大カーニバルの一つ、マルディグラが開催される場所でもあります。カーニバル、つまり謝肉祭ですから、春の初めのイベントです。いくつも大きな山車が出てきて、パレードを繰り返します。ただ、そのせいで、春先の時期にはホテルが満室になってしまう傾向があります。
南部らしい景色
最後に、南部らしい南部を見たい場合には、アパラチア山脈の東側、チャールストンやサバナを目指すのがいいかと思います。
南北戦争の口火を切ったサムター要塞を見に行くなら、クルーズツアーもあります。また、南部らしい歴史的な遺物としては、ブーンホール・プランテーションや旧奴隷市場博物館などがあります。それらを見てからエドモンズトン・オルストン邸を見て、ギャップを味わうのもいいでしょう。

サバナは小さな街ですが、その美しさで知られています。
目立つ観光資源があるというより、街並みそのものを楽しく場所となっています。映画「フォレスト・ガンプ」の撮影も行われました。
南部には魅力的なところがたくさんありますが、これらすべてを見なくては気が済まない、という人は、あまりいないでしょう。オーランドのディズニーリゾートで遊びたい人がモントゴメリーやリトルロックで黒人差別の歴史を学びたいとは思わないでしょうし、逆もまたそうだろうからです。
ニューオーリンズなどの音楽の盛んな街についてもそうです。一晩滞在しただけで慌しく先に進んだのでは、ほとんど何も見ないで終わってしまうでしょう。南部も狭くはありません。移動にはかなりの時間がかかります。できることなら、じっくりと目的を絞って、腰を据えて滞在したいものです。