外国人旅行者はカネヅル
悪意ある外国の人々が、旅行者であるあなたに望むことは、何でしょうか?
もし、あなたが若さと美貌を兼ね備えた女性であるなら、性的被害の可能性も考慮すべきかもしれません。ですが、それ以外の旅行者についていえば、現地の人々が得たいと望むものはズバリ、お金です。
もちろん、キレイでフェアなトレードの末に利益を得ようというのであれば、あなたも望むところでしょう。外国では、現地の人々の売ってくれるモノやサービスだけが生命線になるからです。しかし、それ以外のやり方……つまり、アンフェアな手段であなたのお金を奪おうとしているのであれば、これは避けていきたいところです。
中でも過激な手段が犯罪になります。スリ、置き引き、強盗……しかしこれは、失敗した場合のリスクが小さくありません。敵意に気付いた旅行者が、どんな反撃をしてくるかもわかりません。ナイフを見せて脅したら、相手も死に物狂いで抵抗するかもしれないのです。下手に逃げられでもしたら、もうお尋ね者です。
よって、多くの人はもっと穏当な手段で大きな利益を獲得しようとするのです。
では、どうやって?
それが「ボッタクリ」なのです。

旅行者は、理想的なボッタクリのターゲットです。
まず、現地の言葉を話せないことが多い。これが第一です。共犯者がいても、そいつとは現地語でやり取りすればいいのです。おおっぴらに密談ができ、旅行者を罠にハメることができてしまうのです。
それから、現地事情を知らないので、相場もわかりません。かなり割高でも、こんなもんだよと言えば買ってしまう。おいしいです。
現地と繋がりがないので、被害にあっても泣きつく場所もありません。これが地元の人間相手だと、保護者に相当する人物が怒鳴り込んでくるかもしれませんし、そうでなくても「あいつらはヤバい」と噂を流されてしまうので、二匹目のドジョウは狙えません。
極めつけは、なんといっても旅行者なので、長居せず、いなくなってくれることです。売ったら売りっぱなし。アフターサポートなんて不要! 高かろう悪かろうで全然オッケー!
しかも、ボッタクリに気付かず終わることだって多々ありますから、もう、狙っていくしかないでしょう。
脅迫型ボッタクリ
ボッタクリには、二通りのパターンがあります。
私の勝手な分類ですが、一つは「脅迫型」、もう一つが「説得型」です。
まずは脅迫型の説明からしましょう。
これは私の知人の例ですが、こんなことがあったそうです。
東欧の街を旅していると、道端で男に声をかけられました。いい時間だが、バーで飯でも食っていかないか、と。ちょうど空腹を感じていたこともあり、現地のおいしいお店に当たればラッキーと思って、あまり酒を飲まないながらも彼は了承しました。
そうして案内されたのは、とあるビルの地下室。降りていって、扉を開けたら……
薄暗いガラガラの店内。そして奥には、下着姿の女性……
「やられた!」
と気付いたそうです。
さすがに、そこで飲んだり騒いだりしてから高額請求されてビックリ、なんてマヌケはしでかさなかったのですが、何しろ地下室、案内してきた男は後ろでガッツリ出入り口を塞いでいるし、店側も注文なしで帰るなんてさせる気配はありません。
結局、ろくに飲みもしないビール一杯で、かなりの金額を毟り取られて逃げてきたそうです。

これなんかは、限りなく犯罪に近い手法ですね。
ただ、普通のビールではなく、ここはセクシーバーなんだから高いのは当然、という理屈もあるので、知らずに入ったとはいえ、泣きつく場所などないでしょう。
この場合の予防法は、犯罪の防止方法と同じです。
話しかけてくる人には目的がある。理由がある。それが許容範囲かどうかを承知した上で、付き合うかどうかを決めるべきです。
また、行く場所が地下室など、逃げ場がなさそうだということを、瞬時に判断すべきです。そんなのすぐにはわからない、と思うかもしれませんが、とにかく「話しかけてきた」=怪しいのです。言ってみれば、声をかけてきた時点でそいつはもう、犯罪者予備軍です。そう思って間違いはありません。
曖昧なままにしてはならない!
次が「説得型」です。
これは、かなり幅広い分類です。目に見えるものもあれば、見えないものもあるからです。
目に見えるものとはどういうことかというと「金額を明示しない」という手法を使ってきた時です。
具体的には、タクシーに乗ろうとしているのに、目的地までの金額を言わない。とにかく乗れと言ってくる場合です。或いは、乗ってもメーターをまわさないケースです。
もしそういう運転手に当たったら、黙っていてはいけません。
「メーター! メーター!」
と狂ったように叫びましょう。ドタンバタン暴れて抗議しましょう。それでも無視したら、走行中の車の後部座席のドアを開けて飛び降りる準備をしましょう。
英語をうまく話せなくてどもるくらいなら、日本語でブチ切れましょう。
「お前はいったい何をしたいんだ!」
とにかく、黙っていてはいけません。抗議しなければ容認したことになります。

インドなどではよくあるのですが、リキシャーに乗って移動中に運転手が知り合いにあって、勝手に乗客である自分達の横に乗り込んできたりするのです。もちろん、知人だからタダなのですが、問題はそのプレッシャーです。運転手がどこに行くかもわからない上に、正体不明の成人男性が同行するとなると。わけのわからないところに連れ込まれて、殺されるかもしれません。
これも未然に防ぐためには、ギャーギャー喚きたてるしかないのです。ボッタクリで済めばいいですが、そのままシームレスに強盗殺人に発展してもおかしくないからです。
サブマリンボッタクリ
それとは別に、目立たないボッタクリもあります。
お土産屋にガラクタが並べてあって、「いくら」と尋ねると「全部千円」と答えたりするのが、そのいい例です。

日本人にとっての千円なら、「まぁ払ってもいいか」という金額ですが、国によってはまったく違う価値になったりするのです。現地価格でやり取りすると値切りが入ったりするのですが、そうやって日本の相場に持ち込むことを目的に、そういう値段設定をするのです。
現地の通貨単位で金額設定していても、観光地なら大抵、ボッタクリ価格です。
韓国など、ある程度発展した先進国ならいざ知らず、新興国などであれば、基本的には相場なんて、あってなきが如くです。
よって値切り交渉が必須になってきます。
相手に金額を言われたら、まず半額は基本と思ってください。最初に声をかける時には、提示された金額の三分の一くらいをポンというくらいがちょうどいいです。
「クソ高いな! じゃ、他見てから決めるよ、ありがとう」
笑顔で余裕を見せながらやると、ベターです。
そうやっていろいろ見比べて、金額を見極めていくのがいいでしょう。
言葉は通じなくても、表情や態度は通じます。これもうまく使いましょう。
ペルーに行った時、同行者の一人がアルパカのマフラーをお土産に買おうとしていました。何もマチュピチュ村で買わなくても、と内心溜息をついていましたが、とにかく交渉のやり方がなってないのです。しっかりと両手でマフラーを掴んだまま、ポケーともう一人の同行者が交渉しているのを見ている。
これではダメだと思った私は、おもむろにそのマフラーに手を伸ばし、落とさないようにしっかり確保してから、同行者を肩で突き飛ばしました。
「バカが、こんなもん欲しがりやがって」
とは言いませんでしたが、「ケッ」「チッ」「ハッ」とガラ悪く不機嫌をあらわにし、軽蔑の視線を浴びせてから、マフラーをそのまま棚に戻すフリをしたのです。
慌てた店員は、もちろんすぐに値引きしました。
……あとで「お前、エグいな」と言われましたが。
もちろん、一番いいのは、最初から現地の相場を知っていることです。
私はナヴォイ劇場の前で、怪しげなウズベク人から「かわいいウズベク美女とのチョメチョメ」に百ドルと言われました。この場合、もし私に買う気があって(買ってません!)、現地の相場も知らなかったら、三分の一くらいから取引を始めて、半額くらいで妥協していたことでしょう。けれども、本当の値段は二十ドルなのです。
だから、完全にボッタクリをなくすのは難しいです。

この手のボッタクリのレベルを落とすには「現地に詳しそうだ」というオーラを出すことです。私の場合、ヘタクソながらウズベク語を話し、しかも現地の実勢価格を知っているという状態だったので、女衒はまったくボッタクリできなくなりました。
そこまでは無理としても、少しでも現地語を覚えておくとか、現地事情に精通しておく、歴史も把握する……そのほうが旅も楽しくなりますし、損もしません。