海外旅行先のルール、マナー、常識

トラブル対策
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タブーなき日本人

 ルールやマナーというのは、その地域で暗黙のうちに守られるものです。
 それはしばしば、外部の人間には理解不能なものも含まれます。

 太平洋のとある島では男性は挨拶として互いの性器に触れ合うという習慣があったそうです。
 ソマリアでは、客人を歓待する時、牛をつぶして振舞いますが、客人はその牛の死体を飛び越えるのが礼儀とされていると、どこかで読んだことがあります。
 また、ある地域では、満腹した証拠に、食事の終わりにゲップすることが求められます。

 これが異文化というものです。
 もっとも、普通の観光客でそこまでハードな異文化体験をするのは、なかなかないでしょうけれども。

 それでも、日本人は特に注意を要します。
 なぜなら、現代日本ほど、宗教的タブーによる制約が弱く、また社会や共同体の慣習・因習に縛られない地域というのは、歴史上でも稀だからです。その日本の習慣のままに海外で行動すると、時と場合によってはとてつもなく失礼な振る舞いになってしまうことも考えられるのです。しかも、そういう可能性にまるで気付けないというオマケまでつきます。

性的禁忌を甘くみてはならない

 まず、平和な日本から来たということで、特に女性が危ないです。
 肌を露出してはいけないというのがどれほど大きな問題か、よくわかっていないのですから。

 イスラム圏では、ムスリム女性はヒジャブを被らなくてはいけなかったりします。法律で禁じられていなくても、慣習がそうさせます。
 また、その他の地域でも、世界全般、もっと性的なものには厳しい視線が向けられるのが普通です。例えばエチオピアの女子高生は、日本の女子高生の制服を着られません。

「膝が出るスカートなんて、商売女みたいじゃない!」

 とドン引きです。

 日本のジェンダーキャップ指数が低くて、百位以下だったりするのを見て「海外はもっと自由なんだわ」と勘違いする人もいますが、全然そんなことはありません。むしろ海外のほうが、先進国途上国問わず厳しいです。
 ジェンダーキャップ指数は、女性の政治参加や教育で大きく加点されます。また、企業幹部などの数もカウントされるので、文化そのものはそこまで考慮されません。つまり、ガチの女性差別がある社会でも、たまたま独裁政権のトップに娘がいた場合、そのまま「女性政治家」「女性実業家」になってしまうので、見た目の順位が上がってしまうのです。
 現状、日本ほど女性がどんな格好をしてもいい場所なんて、世界中どこにもありません。

 問題は、それが二つの反応を引き寄せることです。

 一つは怒りです。
 特にイスラム圏では、性的な乱れに対する嫌悪が凄まじいです。彼らがなぜ豚を食べないかというと、豚には乱交の習慣があるからです。あの性的な不潔さが自分達に伝染するのを嫌っているから、避けるのです……と、知り合いのムスリムが言っていました。だから、ミニスカでイスラム教の聖者の廟堂なんかを訪問したらどうなるか。カンカンに怒り出す人がいてもおかしくありません。
 東南アジアの仏僧も同じです。修行中の僧侶は、女性に触れてはいけません。物理的に触るのもアウトですが、直接に物を受け渡すのもダメです。何かを受け取ったり、渡したかったりする場合は、いったんどこかに置きましょう。
 世界では、性的なタブーが日本よりずっと強烈な場所のほうが多いのです。

こういうイスラムの聖廟にいくなら肌の露出は控えること

 もう一つは、性欲です。
 日本人は、なんだかんだいって、大半はおとなしいです。でも、海外では違います。あんな格好をしているんだから、淫らな女に決まっている……こんな風に考える、それこそ今の日本人男性よりずっとずっと古めかしい発想の男達がワンサカいるのです。
 あわよくば、で擦り寄ってくる男が何をしでかすかわかりません。
 まともな日本人の男性なら、たとえ同じホテルの一室で睡眠を取るとしても、あまり襲ってきたりはしませんが、海外では通用しません。そういう場所に男を招きいれた=オッケーと考えるのが普通です。いったん動き出してから「ダメ」といっても聞き入れてくれたりはしませんし、通常、相手のことなんか考えませんから、避妊すらしてくれないでしょう。
 その延長線上で、女性が泥酔するまで呑むというのもアウトです。日本よりフェミニズムが浸透しているはずの欧米の女性ですら、うっかり飲み過ぎないように自制しているのです。何かあるかもしれないと認識しているからです。私の知人でも、若い頃、中国で調子に乗って飲みすぎて、翌朝、「体に何かされた」感触が残る状態で、屋外に放り出されていたという経験をした女性がいます。

 ここまで女性に対する注意として説明してきましたが、裏返すと男性にとっても同じです。不用意に、よく知りもしないのに現地の女性に下手に近付くと、何があるかわかりません。

 日本の寛容さのほうが異常なくらいなのだと、改めて認識していただきたいところです。

写真撮影の可不可

 写真撮影も、慎重にするべきです。
 これは、いろいろな場面でいえることです。

 ウズベキスタンでは、あの美しい地下鉄を含むいろいろな公共施設が撮影禁止です。理由は、テロリストに情報を与えないためです。
 一見、治安がいいように見えても、実のところは武力で押さえ込んでいるだけに過ぎません。地下鉄の入口からホームまで、大きなライフルを担いだ兵士が何人もウロウロしているのです。その意味を考えなくてはなりません。

 他の理由で写真撮影が許されない場所もあります。
 ニューヨークのカーネギーホールも写真撮影は禁止となっています。

 欧米では、個人の肖像権プライバシーについての意識が非常に高いため、人の顔がわかる状態で撮影されるのをひどく嫌う場合があります。顔だけでなく、私有地に踏み込んだり、そこで撮影したりというのも嫌われる可能性があります。

こういうのが危ない

 その延長でもないですが、写真撮影について注意をもう一つ。
 観光地には、毒のないアナコンダみたいなペットを連れた男とか、コスプレしたオバさんとかがいたりします。不用意にパチリとやると、すごく面倒なことになるので、避けてください。撮影料を払え! と詰め寄ってきますよ。

チップ

 それから、チップについてもここで。

 国によって、チップの文化があったりなかったりします。基本的に安月給で働いているホテルなどの労働者は、部屋に残されたチップに大きく依存しています。これがないということは「働きぶりに不満がある」という意思表示だと受け取ります。そして、お金が必要となれば、「無礼な宿泊客に思い知らせる」のもやぶさかではありません。
 盗難その他のトラブルを招きたくなければ、チップを惜しんではなりません。決して大きな金額ではないので、ケチケチすべきではないのです。また、それを前提にする以上、常に小銭を持っておくべきです。

 これから訪れる国にチップの習慣があるかどうかは、事前に調べることができます。特に同じホテルに二泊以上するのなら、外出中にトラブルが起きないよう、気をつけておきたいものです。

文化の違いを受け入れる

 細かいことを言い出せばキリがありません。
 例えば、イタリアで食事をした後にカプチーノを注文すべきでない……食事に満足できなかったという意思表示になってしまう……とか、そういうことはいくらでもあります。

イタリアで食後のカプチーノは避けるべき

 一般的な旅行とはまた違った話ですが、日本のバイオリニストの外山滋氏は、イタリアの演奏会でアンコールにシシリアーノをやって会場の熱気を一気に氷点下にまで叩き落したという失敗をしたことがあるそうです。
 演奏そのものはできても、文化をよく弁えていなかったがゆえに、こういうことが起きました。シチリアーノ、つまりシチリア風の舞曲ということですが、それをあちらの人が耳にすると、シチリアの苦難の歴史が思い起こされるのです。日本に喩えるなら、散々楽しいコメディをやった後に、いきなり太平洋戦争の重苦しい映像を流すようなものです。これでは楽しい気分なんか一発で吹き飛んでしまいますね。

 逆に、こちらが気分を害することもあるかもしれません。
 ウズベキスタンでは、相手の事情について、平気で質問します。日本では憚られるような、たとえば結婚しているかどうかについても、ズケズケ訊いてきます。のみならず「そんな年齢でどうして未婚なの?」ということもズバズバと、遠慮せずに口にします。
 悪気はないのです。相手のことを根掘り葉掘り尋ねるのが彼らの文化であり、スタイルなのです。そして早婚もまた、彼らの常識だったりします。

 タイではソンクランの時期になると、水鉄砲で人を撃つのが当たり前になります。ソンクランの前日から、いい歳したオバちゃんが路上にしゃがみこんで、何か呟きながら水鉄砲を向けてくるのです。
 これが当日になると、もはや容赦などありません。

「ウイ!」

 という掛け声と同時に路上の少年達が、走行中のタクシーに向けて水をぶっかけてきます。ディナーを楽しんでいても、構わず射撃です。自ら水を被ったタイ人女性が追いかけてきて、こちらが濡れるまで抱きついてきます。
 こういう時、礼儀にかなう態度とは、こちらも水をぶっかけることです。そっと気付かれないようにバケツに水を満たし、いきなり後ろから浴びせると、大声をあげて喜んでくれました。

ソンクランが近付くと、コンビニでこういうデカいのが売られるようになる

 だから、知らなければいけないのです。

 旅行とは、その国の文化を学ぶことではありますが、学習であるのであれば、当然、予習復習が欠かせません。事前にその国の文化や習慣、歴史を知った上で訪問すれば、トラブルも予防できて、楽しみも倍増です。

 旅行にはいろんなことが必要ですが、まず知ることです。それが最初の「旅支度」なのです。

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