列車のメリットは快適さ
私がアメリカ旅行の交通手段として、最優先で挙げたのが国内線航空機でした。とにかく国土が広いからです。道路や地上の障害物……たとえばロッキー山脈など……に遮られず、とにかく路線さえあれば最短で移動できるのです。これは飛行機だけの特権です。
その他の移動手段はすべて、地上の制約に縛られます。その上で、優先順位を高く設定しているものが、アムトラック(列車)での旅です。
なぜアムトラックを推すのか。
グレイハウンド(長距離バス)やレンタカーと比べて、何がいいのか。
「旅行者の体力を温存でき、かつ移動そのものを楽しむこともできるから」
グレイハウンドよりルートの自由度も低く、コストも高くつくことが多いのが列車です。しかし、その快適さはバスとは比較になりません。
アムトラックの装備
列車の装備は、目的地との距離によって大きく変わってきます。
さほど遠方を目指すのでもない場合、普通の客席用車両(コーチ)と、あとは軽食を販売するスナックバー車両が連結されているだけです。しかし、これが長時間の旅が想定される場合には、睡眠をとるための寝台車(スリーパー)、天井までガラス張りになっていて視界を妨げない展望車(ラウンジカー)、まともな食事を供する食堂車(ディナーカー)が連結されるのです。

どうも「列車の旅」というのは、アメリカでは娯楽的要素が強いようで、その分快適に作られているようです。座席も倒れるし、フットレストもあるので、普通のコーチでも体を休めることができます。トイレにはトイレットペーパーもあり、ペーパータオルまで用意され、しかも石鹸、紙コップ、ティッシュまで完備と、不自由しません。
また、スナックバーは必ず連結されますが、これもバカになりません。アメリカ人にとっての軽食は、日本人にとっては普通の食事です。ホットドッグくらいは出てくるので、空腹でどうしようもないなんてことはないでしょう。

ですが列車を楽しむ場合、なるべく長距離の移動を選んだほうがいいでしょう。それこそ大陸横断をするとか、そういう使い方です。
車中泊するような旅であれば、食堂車も必ずついてきます。朝食や昼食が10ドルくらいはしますし、夕食はというと20ドルに達することもあります。お高いですが、これも優雅な列車の旅というやつです。なお、寝台車で予約した客の場合は、料金の中に食事代も含まれていますので、チップだけで足ります。
なおチップですが、寝台車利用で5ドル程度を見込んでください。スナックバーや食堂車の利用時にも、気持ち程度を出すといいでしょう。とにかく「サービス」が発生する箇所ではチップが必要なのです。
また、列車の旅は、実は障碍者の方にもオススメできるものです。車椅子用の寝台があるからです。
車椅子の方が旅行を楽しむのは、簡単ではありません。介助してくれる人が必要なのはもちろんですが、飛行機に乗るにも事前申請が必要だったりします。そういう意味では列車も同じといえばそうなのですが、こちらは駅にてチケットを買う段階で話を通すことができます。
アムトラックの利用方法
列車を使うとして、アムトラックの時刻表はどうなっているのかですが、それはウェブサイトで閲覧できます。現地でもタイムテーブルが配布されています。
毎日運行している列車ばかりではないので、事前調査を怠らないことをお勧めします。
多くの場合、列車は予約しなくても当日のチケット購入で乗れるようです。ハイシーズンの寝台車は込み合うらしく、これは事前予約が必要なようですが、それ以外では当日にチケットを買えば間に合うことが多いです。

ただ、列車を軸に旅行計画をたてるにしても、アムトラックの網羅する範囲は、しばしば重要な都市が含まれていません。そこはやはり、バスやレンタカーで埋める必要があります。
その辺の不便さには、アムトラック自身が気付いているようで、一応、対応策が用意されています。大都市を基点として、周辺都市にアムトラック連絡バス(Amtrack Thruway Bus)を運行させているのです。
例えば、列車の路線図にはラスベガスが含まれていませんが、これはロスアンゼルスのユニオン駅からバスが出ています。
列車や連絡バスを使う場合、荷物はチェックイン時に預けます。二つまでは無料で、有料でも四つまでは預かってもらえます。

アムトラックは、アメリカ国内だけを走っているわけではありません。カナダへの国境越えも可能です。
その場合、カナダ入国前に必要な書類を配布されます。手続きは、どの便で入国するかによってやり方が微妙に異なるらしく、列車に乗ったままということもあれば、駅で入国審査が行われる場合もあるようです。
確認されるのは常識的なことです。チケットとパスポートを照合した上で、入国目的や滞在日数、課税対象の持込の有無などを尋ねられます。
列車の旅の短所
長所もたくさんある列車ですが、当然ながら欠点や問題点もないわけではありません。
そのうちの一つが、まず、とにかく遅れるということです。
どうもアメリカの交通機関というのは一貫して、東高西低らしく、ボストン~ワシントンDC間などの東海岸では遅延が発生しにくいらしいのですが、西海岸に向かう長距離列車ほど、遅れがでやすいようです。日本と違って線路が複線になっていない上に、貨物列車が優先するという事情もあってのことでしょう。
それから、列車の旅に適さない区間があります。ボストン~ワシントンDC間は遅延が少ないのですが、同時にビジネスユースで混雑する傾向もみられます。その上、利用料金も割高になるので、ここはこだわりがなければ、グレイハウンドのほうが有用かもしれません。
また、夏は車内に冷房が効いているのですが、これが効き過ぎるという話が頻繁に聞かれます。逆に寒いということで、車内では有料の毛布を手に入れることができるらしいですが、なんとも本末転倒なお話です。念のため、着脱可能な上着を用意しておくと、安心かもしれません。
列車の中にはスナックバーが必ずありますが、駅の設備は貧弱で、売店などはあまり見つかりません。そのため、何も考えずに乗り込むと、割高な軽食をとらざるを得なくなります。もし予算を節約したいなら、食料を事前に用意しておくべきです。
このように、列車での移動にも、長所と欠点があります。
他の交通手段と組み合わせて、上手に利用したいものですね。