他の方法では実現できない旅行なら
国内線、鉄道、長距離バス……
しかし、あまりに広大なアメリカの大地は、それでも埋められない隙間を残すのです。
となれば、もはやレンタカーに頼るしかありません。
しかし、これはなかなかにリスキーな選択でもあります。よくよく考えて、他の手段でなんとか解決できないか、旅程に妥協するべきかを判断して、その上で利用してください。
アメリカは車社会です。特に、公共交通機関の整備が不十分な西部に行けば行くほど、大都市圏から外れれば、自動車以外の移動手段がなくなるのです。だから、アメリカ人なら当たり前のように車を運転します。
ですが日本からの旅行者が運転するとなると、問題が一気に噴出することになります。
国土が25倍なら、トラブルも25倍増し?
まず、事故の危険性です。
ただでさえ慣れない外国で、交通ルールも日本とは違います。標識も見慣れないものばかりで、英語力がないと注意書きも直観的には読めません。こうしたこと一つ一つが、ドライバーの集中を妨げます。
スピードの出しすぎもよくあることです。スピードメーターはマイル表示なので、どれだけの速さで走っているか、実感しにくいのもあります。ましてや目印になるもののない大平原を突っ切っているとなると、実際の速度がどれほどか、体感的にもわからなくなってしまいます。
その上、アメリカでは日本より遥かに運転免許の取得が簡単で、そのために技術のない運転手が大勢います。車社会の度合いが日本より強いため、かなりの老人でも一人で車を運転していたりします。このことは、もらい事故を招く危険性が高いことを意味します。

いざ事故を起こした場合も大変です。英語力がなく、下手に出ると、どんどん状況が不利になっていきます。警官がやってきて状況説明を求めてきた時、一方が言葉の通じない東洋人で、もう一方が英語ペラペラのアメリカ人だったら、どっちの言い分を聞こうとするでしょうか。
また、市街地の運転ならいざ知らず、どこか国立公園でも行こうとなれば、普通に数時間のドライブになり得ます。日本よりずっと国土が広いので、走行距離も自然と長くなるのです。これもドライバーを消耗させますが、それだけではなく、ガソリンスタンドでの補給をうっかりしくじると、延々と続く道路のど真ん中で立ち往生、なんてこともあり得なくはありません。
これは、本当に冗談ではありません。例えば、あの美しいグランドティトン国立公園を抱えるワイオミング州のことを考えてみましょう。

ザ・ド田舎です。この州には、アムトラック(鉄道)すら走っていません。4年制の大学も1つしかありません。
州の広さは、およそ日本の0.67倍、つまり日本全体の3分の2くらいの面積があります。なのに、人口はというと60万人にも達しません。日本なら、普通に6000万人くらい暮らしてそうな広さに、60万人です。一番大きな都市であるシャイアン市ですら、6万人以下が暮らすだけです。
鉄道が通ってないからとレンタカーでこんなところを突っ走ってる最中に、自損事故を起こしたり、ガス欠になったら、どうなるでしょうか? そうでなくても、自動車が整備不良で壊れたら?
大平原の何もない道路の真ん中で、ポツンと取り残されてしまいます。通りすがりの人なんていません。
国際運転免許証
それでもアメリカでレンタカーを運転したいということであれば、国際運転免許証を取得する必要があります。
といっても、何か試験を受けたりするわけではありません。
1.運転免許証
2.パスポート
3.顔写真1枚(縦5cm, 横4cm)
4.申請用紙(窓口でもらえる)
5.以前に取得した国際運転免許証
6.手数料(2400円)
7.印鑑
これらを用意して、各都道府県の免許センターまたは管轄の警察署に行き、手続きします。免許センターでは即日交付もあり得ますが、警察署では時間がかかり、2週間ほどかかることもあります。
当然ながら、免許停止処分を受けた人などが申請するのは不可能です。
また、アメリカでも日本の運転免許証はチェックされるので、日本に置きっぱなしにしてはいけません。ちゃんと携帯しましょう。
レンタカーを借りるには
そこまで準備できたら、次はレンタカーを調達します。
基本的には25歳以上でないと借りられませんが、日本で予約する場合には21歳以上から借りられるようです。
選択肢としては、まず以下の大手から選ぶべきでしょう。
Herts
Dollar
Alamo
Avis
Budget
中小のレンタカー会社はもっと安いようですが、旅行者という立場上、片道で乗り捨てる状況が考えられます。例えば、ラスベガスから乗って、ソルトレークで乗り捨てるといった状況です。なので、ある程度の規模感のある会社から借りるほうが、結局は手間を増やさずに済むでしょう。
また、状況次第ですが、空港でのレンタルがかなり一般的なので、もし旅程として都合がよければ、空港で車を借りてしまって、そのまま乗り回すのもいいと思います。
予約があっても、現場で車を借りる際には、クレジットカード必携です。
うっかり車を盗まれたり、捨てられたりしてはたまりませんから、そういう身元保証手段がない客の場合は、高額の補償金を置いておくよう要求されます。支払いまでクレジットカードで済ませてもいいですが、そうでない場合でも、コピーは取られます。
なお、車の運転を一人の人がずっと続けるのは危険ということで、複数のメンバーで運転したいということもあるかと思いますが、その場合は必ず申告してください。指定された運転手以外が事故を起こした場合、「契約違反」になります。せっかく保険をかけても支払われなくなり、全部自腹ということになりますから、注意してください。
当然ながら、他の運転手となる人は全員、国際運転免許証が必要です。
交通ルールを把握しよう
運転のルールですが、日本とは大きく異なります。
まず、右側通行です。よって右折はよくても、左折が日本における右折のようなものになるで、不用意な操作は危険です。
また、信号機のルールも少し違います。交差点にて、赤信号でも、一時停止して周囲の安全を確認できたら、右折が可能です。但し「No right turn On red」の標識がなければです。
それから、あくまでアメリカは合衆国なので、州単位で法律が変わります。法律が変わると何が違うかというと、法定速度も違うということです。同じ道路を走っていても、州境をまたいだら、制限速度が変わることもあり得ます。
これらについては、とにかく慣れるまで、気をつけるしかありません。

しかし、絶対に回避しなければならないのが飲酒運転です。
これは日本とは比較にならないほど、重い罪になります。しかもルールも非常に厳しいです。
カリフォルニアでは、運転手が飲んでいなくても、同乗者が飲んでいたり、飲みかけの缶が車内に転がっているだけでも違反に相当します。少し考えればわかりますが、
「俺は飲んでない! 運転しているのは俺だけだ!」
と主張したところで、同乗者がさっきまで飲酒運転していたかもしれず、警察を見かけたから入れ替わっただけなんじゃないか、と疑うこともできるからです。ビール缶だけで御用になるのもそういうことで、車内で缶が見つかるということは、飲酒運転したことがあるんだろうと推測できてしまうからです。

なお、交通違反をしてしまったら、警察には逆らわないほうがいいです。見逃してもらおうとか、そんなことは考えるべきではありません。
日本とアメリカでは、警察官の緊張感がまるで違うのです。概ね平和で、滅多に事件の起きない日本と、深刻な銃器犯罪に麻薬中毒者も続出のアメリカでは、交通違反の取締り一つとっても真剣さが別物なのです。実際、ちょっとした交通違反が麻薬の売買の発見に繋がったり、銃乱射事件を未然に防いだりといったこともあり得る世界なのですから。
ガソリン、駐車場など
アメリカでは、ガスステーションはセルフサービスが常識です。
普通はレギュラーガソリンを入れれば充分です。ただ、車種によってはプレミアムガソリンを要求するものもありますので、事前に確認しておきましょう。大型SUVや輸入車の場合に多いようです。

自分で給油するやり方ですが、先払い方式と後払い方式の2通りがあります。
先払いの場合は、利用するポンプの前に車を止め、エンジンを切ります。ポンプの番号を覚えてキャッシャーに行き、ポンプ番号と給油する量を指定して料金を支払います。それでポンプが利用可能になります。あとは給油キャップを外してポンプのノズルを差し込んでください。
もし仮に入れたい量より少なく給油した時点で満タンになったら、再度キャッシャーのところに戻って、入れなかった分を返金してもらうこともできます。
有料駐車場も、前払い方式と後払い方式とがあります。
前払いのものは、定額制になっていることが多いです。車を離れる際には、フロントガラスの内側など、見える場所にチケットを置いておきましょう。
後払いの場合は、時間によって料金が変わります。一定時間内なら無料という表記がある場所もあるので、よく確認してください。
レンタカーの利用は、アメリカ旅行を一気に便利にしてくれます。
一方で、大きなリスクのある移動手段であることも忘れないでください。